Attempted suicide SIDE:M
冬の寒空の夜、私の立っている歩道橋の眼下では高速で駆け抜ける光が耐えることはない。それを目で追いながら、数分間前に呼び出しのメールを送った彼を待つ。時間に律儀な彼のことだ、もうしばらくすればここへたどり着くはずだろう。
「美佐。」
ほら、来た。
「こんばんわ、しょーちゃん。」
黒地のパーカーにジーパン、そして愛用の眼鏡をかけてやってきた幼馴染に私は微笑みかける。
「毎回毎回、妙なところに呼び出すな、お前は。」
しょーちゃんの愚痴はため息とともに白い煙となって空へと登っていく。
「何だかんだで来てくれてるくせにー。」
「お前の呼びつけを断ると後が面倒なんだよ。」
「それって、もしかしなくても私のこと心配してくれてる?」
「アホか。」
しょーちゃんのあまりの言い草に私は『ひっどーい。』と声をあげて笑ったあとの小さい間。足下の車の音が一層大きく感じる。
「あぁ、今日はこんなにも冷たい夜。まるでこの世界のよう…。こんな日は、そう。絶好の自殺日和ではありませんかねぇ?」
もはや古典の中でしか存在しない詩人のように紡がれた自分の言葉には物騒な言葉が居座っている。
それに対してのしょーちゃんの驚きは少なく、変わりに『またか。』と二回目のため息。
「美佐、いい加減その自殺癖をどうにかしろよ。止める方の身にもなってくれ。」
「今回は本気だよ。」
「何回目の本気だ。――だいたい、本当は死ぬ気なんてさらさらないくせに。」
しょーちゃんの最後の一言で私の思考が少しだけ止まった。
「どうして、しょーちゃんにそんなことが分かるわけ?」
自分でもはっきり分かるほどの苛立った声。しょーちゃんはそれにまったく臆することなく続ける。
「本気で死にたい奴が何でわざわざ止めてくれると分かってる俺なんかを呼ぶんだよ? 訳らからねぇ。そんなに死にたいのなら、俺のいないところで勝手に死ね。」
たしかに、彼を呼ばなければ私はもうあっさりこの世からいなくなれるだろう。でも、それでは。
「それじゃ、意味がないんだよ。しょーちゃん。」
今度は私がため息をつく番だった。
空を見上げるとそこには漆黒の中で鋭く自己主張をする無数の星達。
「しょーちゃんがいなかったら私の最後を誰が看取ってくれるの?」
一人で死んでも意味がない。しょーちゃん以外の人でも意味がない。
私が目の前で死んだら優しいしょーちゃんは絶対に苦しむ。一生モノの苦しみだろう。それは私以外に好きな人が出来たとしても、脳裏には私の死の姿が消えることはない。
私は自分の死と引き換えに彼を縛ることが出来るのだ。それこそ永遠に。
こんなことを考えている自分はおかしいのかもしれない。それでも、私は欲しい。前川祥の不変の永遠が。
こんな事しょーちゃんに言っても真面目に受け取ってもらえないだろうけどね。現に今も当の本人は首をかしげたまま。
「じゃ、そろそろ行きますか。」
私は歩道橋の柵の上をまたぎ、カウントダウン開始。
5・4・3・2
焦って駆け寄ってくるしょーちゃんの姿が妙に滑稽で笑える。
「祥ちゃん。」
1、
さぁ、お別れの時間が近づいてまいりました。ここで酒井美佐の遺言発表です。
「何十年後の、天国で会えるといいね。」
ゼロ――。
私の体が宙に投げ出され、線上のまぶしい光の海で飛び込む。
あぁ、皆様。さきたつ不幸をお許しください。
あ と が き
――…暗っ!!
書いた自分もビックリするくらい暗いです。
これ、本当は2年くらい前に書いていたオリジナル、美佐祥シリーズからキャラだけ引っ張ってきたんですが、少なくともここまでお先真っ暗な展開じゃなかったはずです。
ちなみに15、「死ぬなんていうな。」に続きます。
物書きさんに20の台詞
10 「天国で会えるといいね」
ウタヤシキ 2004,12,5
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